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幸せを高めるためには”味わう”こと

[ Column ]2017/04/22 20:56

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ニューヨーク・タイムズ紙のエッセイスト、バーバラ・グラハムが幸せのメカニズムについて伝えます。(3回シリーズで紹介)

第一回めはこちら

■幸せの鍵は何かをしたいと思う気持ち 〜主体的な行動で幸せ度を上げる〜

「“もっと幸せになろうよ”と押し付けるわけではありませんが、もし生活が苦しいと感じていたり、ネガティブな感情がよく起きている人なら是非やってほしいことです」

 

カリフォルニア大学リバーサイド校の心理学の教授で”The How of Happiness” の著者、Sonja Lyubomirsky(ソニア・リュボミアスキー) は幸福を高めるための方法を著書でも沢山紹介していますが、同時に「誰にでも当てはまるような方法」がないことも伝えています。

ダイエットを思い出してみてください。色々試して結果が出なかった人は、誰でも必ず痩せられる方法がないかと探すものです。幸福も同じで、多くの人は”必ず幸せになれる”方法や法則がないか探しがちです。しかしこのどちらにも言えることは特効薬がないことが分かっています。その代わりに、幸せに関して言えば、試してみる価値がある方法は何百もあります。いろいろやってみることで、あなたにぴったりのものを探し出すことができるでしょう

雑誌やメディアでは“幸せになるための、たった一つの真理”と題した記事もありますが、実はそういうものはないということですね。 せっかくなのであなたの幸福度を上げる可能性がある方法を幾つか紹介しましょう。

・感謝の気持ちを伝えること
 これは直接言葉をかけてもいいし、手紙などでもOKです
・少しだけでも楽観的な見方をしてみること
 今の苦しい状況のなかでもいいことはないでしょうか?
・意識して優しい行動をとること
・誰かと深い関係性を築くこと。築こうとすること
・あなたを傷つけている人々を許そうとしてみること
・人生の楽しい時間、嬉しい時間を心から味わってみること。(携帯電話を見たりせずに)
・あなたが心から打ち込める仕事や社会活動に参加すること。
・“今ここ”に集中するマインドフルネスのトレーニングをすること
・そして、運動をしたり、たくさん笑ったりする機会を持つこと
・健康に気をつけること

 

リュボミアスキー:「小さな一歩から始めましょう。あなたのライフスタイルに自然に、簡単にフィットしそうなことを始めてみてください。その後、もう少しチャレンジングな何かをやってみてください。理想的にいけば、やってみたことのいくつかは習慣になって、考えずにやれるようになります。例えば、他人との深い関係性を築くために、良い聞き手となって傾聴(けいちょう)することです。そのためには継続的な意識と努力が必要な場合もあるでしょう。」

 

なかでも人に感謝の気持ちを伝える練習は、“わざとらしくて苦手”と感じるかもしれませんが、“簡単に出来るものの中では、最も大きな効果が得られる“と多くの研究が示しています。

 

リュボミアスキー:「感謝の気持ちを伝えたり、感謝した出来事を毎週記録することで、あなたの人生にとって本当に大切なことにより着目できるようになります。これは幸福度を高めるだけでなく、不幸な出来事について悩みつづけたり、他人と自分を比較して幸福度を下げることを減らします。たぶん周囲の人は“感謝を数えることに本当に効果があるの?”と言うでしょう。実は私もそう思っていました。でも、実際にやると、そこから得られる効果はとても大きいのです。」

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■”味わう”ことで、頭の中は変えられる

疑い深い人、慎重な人は、自己啓発セミナーや講演でよく使われるような大げさな身振り手振りや、グループ実習を好まない人もいます。無理やり何かをやらされることに違和感を覚えるわけですね。こういった人たちは先に挙げた感謝やその他の幸福度を上昇させる練習を否定しがちです。それに対して、科学的な見地での研究結果をお伝えしましょう。

 

Hardwiring Happiness”の著者であり、TEDでも講演している神経心理学者のリック・ハンソンは、カリフォルニア州サンラファエルで麻婆豆腐を食べながら、私に教えてくれました。

意識的に感謝の気持ちを出す練習をすると、脳内の神経化学物質の流量が増加します。さらに、感情によって脳の神経構造そのものの構造が再構築されることも分かりました。例えば怒りや後悔に意識が向いている時の神経構造と、感謝に意識が向いているときの神経構造は大きく異なり、血流量も変わるのです。感謝のようなポジティブな状態の時には、既存のシナプスはより敏感になりますし、新しいシナプスが成長もします。

 

ハンソンは続けます。「重要なポイントは、感謝などのポジティブ感情に持続的な注意を向けることです。ただ、単にポジティブな経験をするだけでは十分な効果はありません。注意を向けてください。私たちの脳の神経構造が幸福体質になるまでには、長い期間が必要になります。習慣にして継続する必要があるのです」

 

ハンソンはこれを、”taking in the good”練習と呼んでいます。 練習は以下のようなものです。

 

例えば嬉しい時、美しい木の光景に心が動いているとき、あるいは誰かと親密さを感じている時、意識できている感情や、意識しないと感じないくらいの”かすかな気持ち”に気づくことです。それに気がつくことが出来たら、5〜10秒間もしくはそれ以上、その感覚を味わってください。あなたにわき起こった気持ちや身体の感覚を否定せず、それを楽しみ、そして味わって深めてみましょう。味わうにつれて、その感情が自分の中に満たされる感覚を想像してみてください。人によっては感覚でなく、何かしらイメージしたり、音で感じたりする人もいるでしょう。

 

私は実際に毎日の散歩中にこれを試しました。何日かたってからでしょうか、周囲の美しさを味わっているうちに、何かがじんわり体にしみ込んでくる感覚がを覚え、それがその後増えていきました。こうして感覚を掴んでいくほどに心地よい感覚が深まって、更に散歩の時間が好きになりました。

 

さて、“taking in the good”練習に短所はあるのでしょうか?恐怖心が和らぐとしたら、危険なことに気がつけなくなるのでは?とか、働く気力がなくなってしまうのでは?と思う人もいるかもしれません。

 

これに対してハンソンは「本当の脅威と誤警報を区別することが重要」と述べています。 「まず自分自身の感覚を信頼すること。信頼できるようになると、より上手に誤警報を見分けることが出来るようになります(注:この場合の誤警報とは、不安になるけれど実際は大きな害が起きえないことなど)。そのためには、あなたの体を静めて、今起きていることに気がつける(マインドフルネス)ようにすることです。最初は難しい人もいると思いますが、まずは意識してみましょう。起きていること気がつけるようになるほど、あなたの内的な感情、特に感謝の気持ちや思いやりの心など、あなたの内的な強さにより気がつけ、育てられるようになります。また、 私たちの脳は、瞬間的には限られた量の情報しか処理することができないので、ポジティブな経験により多く焦点を当てれば、負の感情を取り入れる余地がより少なくなります。」

 

ネガティブな感情にも意味がある

自分の親がそうだったのもあってか(第一回参照)、私は何にでもポジティブシンキングで対処して、嫌なことにフタをすることに不安を覚えますが、これに対して、マインドフルネス瞑想をも教えているハンソンは言います。 「私はポジティブ思考でなく、現実的な思考を信じています。人間はポジティブ思考もネガティブ思考も両方持っています。そしてそれはモザイク模様のように複雑に混ざり合っているものです。」

 

例えば趣味に対してはポジティブ思考が強い、仕事に対してはネガティブ思考がつよいなど、またどちらでもなかい場合もあるでしょう。ポジティブな趣味においても、人間関係には悩んでいたりするとネガティブも入ってきますね。

 

「ポジティブな経験に焦点を当てることで、ネガティブ思考が強い場面でもポジティブな側面を見つけやすくなったりします。完全にポジティブにならなくてもいいのです。それから、このトレーニングは、マイナスの感情を押さえつけたり、ネガティブに感じていることをポジティブに再構成したりするものではありません。それらはマイナスな思考や感情を強めることがあるからです。私が勧めているのは、動揺しているときには動揺し、悲しいときには悲しみ、怒っているときには怒るようにすること。まずは味わいましょう。」

 

関連する研究として、Jordi Quoidbach と June Gruberによる「Emodiversity and the Emotional Ecosystem」という研究があります。自然界における生態系の生物多様性をと対比させて、37,000人以上に対する調査を行ったところ、人間の感情の多様性(人間が経験する様々な感情の多様性と豊富さ)が我々の幸せ(well-being)にプラスの影響を示すことが示唆されたそうです。

感情が多種多様な人ほど、より高い自己認識力を持ち、本当に歩みたい人生を歩んでいます

周りに影響を受けて感情が変わる(例えば、気分良く過ごしていたのに、他人の心無い一言でイライラさせられるとか)というのは時に嫌だったり、恐れるものでもあります。でも、それをそのまま受け入れて、多様な感情を持てることは、ある意味で究極の幸福戦略ですね。

 

楽しいことや嬉しいことだけを経験していれば幸福、というわけではないというこの発見は非常に面白いものです。幸せになりたくて嫌なことに眼をつぶることが幸せから遠のくことになるのですから。 本当の幸せは確かにあります。ただ、それは私達が考えてきたこと、千年もの間私たちが教えられてきた方法とは少しだけ違ったものでした。エピクテトスがの言葉が本当の幸せに近いものかもしれません。

あなたが起こって欲しいと思うような出来事を探さないようにしましょう、代わりに、起こるべくして起こったと思うようにすれば、あなたの人生はうまくいくでしょう。

(つづく)

pic from winetastingtours.co.za

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Happyw編集部